表は経年による暗色に水飴のような艶を残し、エッジに向かって穏やかなマリンブルーのトーンがついています。
この通称トリエステは、両面共に完成度の高い銀貨だと思います。
表は皇帝フランツ・ヨーゼフの青年像で27歳のときのもの。この繊細で夢を見ているような顔立ちが、後に雲上の女神等で描かれる毅然として狷介そうな老年像に変化して行きます。
その様子は、ビスマルクやナポレオン三世といった奸雄の権謀術数渦巻く当時の欧州国際情勢の中、生き残りを模索した苦労を偲ばせます。国勢衰える帝国にあって、保留の知恵によって安易な進取を戒めるその生き方について、どこか共感を呼ぶことが、日本におけるフランツ・ヨーゼフのコイン人気の一助になっているのかもしれません。
裏面は、灯台を中央に配し、左手上部には開通した鉄道を象徴する機関車が、右手上部にはトリエステ港を象徴する船が描かれています。下部に目を移すと、左手にはウィーン州の十字紋章を描いた盾、右手にはハプスブルグ家の紋章である双頭の鷲とトリエステ州の紋章を描いた盾が配置されています。
ただ、このデザインの真骨頂は、盾を囲む高波だと思います。描かれている対象物は全て男性的なモチーフですが、デザイナーのC.Radnitzkyは蔦のような曲線で盾を波で優美に包容することで、全体を優雅な印象に収めています。
表のフランツ・ヨーゼフの柔らかい印象も併せて考えると、そのバランス感覚には舌を巻きます。
国の衰退期は往々にして文化の爛熟期でもありますが、Radnitzkyの作品は、他にもメダル等で優れたデザインのものがあります。さして高価でもないので気長に集めるのも良いかもしれません。
●サイズ：直径 約41.35mm 重量 約37.03gm 品位 シルバー0.900
●グレード/状態：PF65
●発行枚数：1,644枚
●カタログNo：KM#2246.2
●オーナー：K2
●売却意向：無し